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青森地方裁判所 昭和32年(行モ)2号 決定

申立人 片桐克之 外一九名

被申立人 青森市

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人等代理人は、

被申立人青森市が、申立人等に対し、昭和三二年一〇月二三日附青市土第六二七号をもつてなした申立人等所有の県庁前延長線道路上屋台除却の代執行をなすべき旨の戒告の執行は、本案判決確定に至るまで停止する。との裁判を求め、その申立の理由とするところは、

(一)  申立人等は、もと、別紙図面表示(イ)、(ロ)及び(ハ)の区域内に、それぞれ、一、五坪ないし三坪を他から借地し、その地上に店舗を有し衣類、小間物、雑貨、履物、果実等の販売業を営んでいたものである。

(二)  しかるところ、青森市長は、昭和三二年四月三〇日までに、申立人等を右借地上から撤去させ、同年五月一五日別紙図面表示の位置にそれぞれ替地として、面積〇、六七坪(ただし、占用料は一坪分を支払うこと。従つて、最大限一坪までは使用しうるものである。)の道路占用許可を与えた。しかして、右許可の条件は、右占用地上に組立式屋台を設置して使用すること、右屋台は日没時に撤去し得ること、占用期間は二カ月とするも更新して再許可することというにあつた。

青森市長は、右条件により、その後二回にわたり更新許可し、現在同年九月一六日から一一月三〇日までの占用許可が与えられている。

(三)  しかるに、青森市長は、同年九月三〇日申立人等に対し、申立人等が許可された〇、六七坪を超え一坪を占用していること及び組立式屋台を土台附屋台に変更していることの二点において許可の条件に違背していることを理由とし、青市土第五七七号を以つて道路法第七一条第一項第二号によりさきの道路占用許可を取り消す旨通告し、更に、同年一〇月二日青市土第五八八号をもつて、申立人等は右のように占用許可を取り消されたにもかかわらず物件(屋台)を除去しないから、速かにこれを除去して道路を原状に回復せよと通告し来つた。

(四)  ついで、青森市長は、同年一〇月二三日青市土第六二七号「物件(屋台)の除却について(通知)」と題する書面をもつて、右のように原状回復を命じたにかかわらず、申立人等において任意履行しないから、同年一一月三〇日までに物件(屋台)の除去がないときは、行政代執行法第二条に則り代執行をなすべき旨戒告した。しかしながら、青森市長のした右戒告は、次にのべるとおりの理由によつて無効である。

(イ)  そもそも、青森市長から申立人等が占用許可を受けた地積は〇、六七坪であつたが、屋台が組立式で朝組立て夕刻解体するため次第にゆるみを生じ少しの風にも吹きとばされる恐があり危険であつた。そこで、申立人等は、同年九月一六日から一一月三〇日までの間の占用許可出願に当つては、市係員に対し、屋台の構造を組立級店舗すなわち地面に作りつけのものにしたい、そうすると占用面積は〇、九六坪位になるが差支ないかと伺をたて市長の了解を得ていたものである。しかして、申立人等は、同年九月二四日現在の作りつけの屋台に改造し、即日市係員の調査を受け、その承認を得て占用し来つているものである。従つて、申立人等は現在の占用状態につき市当局の承認を得ているものであるにかかわらず、許可の条件に違反していると強弁するのは、不当の最もはなはだしきものであつて、前記占用許可取消処分は無効でありこれに基いて発せられた戒告も無効である。

(ロ)  仮に、申立人等の占用状態が、占用許可に附された条件に違反しているとしても、申立人等は、道路占用許可により各自占用部分につき使用権の設定を受けたものであり、道路占用許可取消処分はこの既得権の侵害に外ならないから、道路法第七一条第二項各号に定める事由が存在しない限りこれをなすことをゆるされないものである。しかるに、本件においては、全くこのような事由が存しない(青森市においては、現在、許可を受けないで道路を占用している屋台が四〇〇軒近くもあるにもかかわらず、市当局がこれに対して何らの処置をとらず放任していることからみて、申立人等の屋台のみ除却させなければならない公益上の必要があるとは考えられない。)のであるから、右道路占用許可取消は無効であり、ひいて、これに基く原状回復命令ないし本件戒告も無効であるといわなければならない。

(ハ)  のみならず、本件戒告は、道路法第七一条第一項又は第二項の規定により、道路に存する物件の除却を命ずることをその内容としているから、同条第三項の規定によりあらかじめ聴問を行わなければならない筋合である。しかるに被申立人は、本件戒告をなすに先だち、聴問を行つた事実がない。しかして、右違法は重大なかしであつて、本件戒告を無効ならしめるというべきである。

(五)  以上何れの点からみても、本件戒告は無効の処分であるから、申立人等は、昭和三二年一一月一五日被申立人を被告として青森地方裁判所にその無効確認訴訟を提起した(同庁昭和三二年(行)第一三号事件)。

(六)  しかしながら、本案判決の確定をまつにおいては、その間に被申立人が申立人等の屋台除却の代執行を強行するのは必至と考えられるところ、申立人等は、右屋台において営業をなしその収益によつて生活をささえているのであり、他に生活の方法をもたないのであるから、右処分の執行により償うことのできない損害を受けることは明白である。しかして、前記のとおり、被申立人は、昭和三二年一一月三〇日限り本件屋台の除去がないときは代執行をなすべき旨明示しているのであつて、申立人等の生活の基礎は旬日の後に破壊されようとしているのである。

(七)  以上のような次第で、本件戒告の執行により生ずべき償うことのできない損害をさけるため緊急の必要があるから、その執行の停止を求める。

というのである。

被申立人代理人は、主文同旨の裁判を求め、その意見の要旨は、

(一)  申立人等主張(一)の事実中、申立人等が、もと、別紙図面表示(イ)、(ロ)及び(ハ)の区域内にいわゆる屋台店を開き営業していたことは認めるが、その余は否認する。(二)の事実中申立人等が、昭和三二年四月三〇日頃右屋台店を任意撤去したこと及び青森市長が、申立人等に対し、屋台店設置のため別紙図面表示の位置に各面積〇、六七坪(ただし占用料は一坪分を支払うこと。)の道路占用許可を与え、右屋台店は組立式であること、日没時に右屋台を撤去すること等の条件を附し、二カ月ごとに更新して許可してきたことは認めるが、その余は否認する。(三)の事実は認める。(四)の事実中、青森市長が、本件代執行の戒告をしたこと、申立人等が組立式屋台を土台附のものに改造したこと(ただし、その日時は同年九月二二日頃である)青森市内には現在他にも相当数無許可で道路を占有している屋台店が存することは認めるがその余は否認する。(五)の事実は認める。(六)の事実中、本件屋台が申立人等の唯一の収入源であること及び本件代執行により申立人等が償うことのできない損害を受けることは否認する。

(二)  申立人等は、もと、別紙図面表示(イ)、(ロ)及び(ハ)の区域すなわち都市計画街路(道路予定地として被申立人が青森県から管理を委任されている地域)を不法に使用して営業をしていたが、昭和三二年四月三〇日頃青森県、青森警察署長、青森市消防長、青森市長等の勧告により、右不法設置の屋台店を任意撤去したのである。しかしながら、申立人等は、右勧告に応じたものの、差当り立退先がないというので、暫定的措置として同年一一月中旬までと限つて、申立人等に対し、別紙図面表示のとおり市道の占用を許可した次第である。しかして二カ月ごとに許可を更新して来たのは、立退先の見つかつた者から順次屋台を撤去してもらい、立退先の見付からない者にのみ更新許可する方針であつたからである。又、第三回の許可において期限を一一月三〇日としたのは、本来は一一月一五日でよいのであるが、最終の月でもあるので申立人等の利益のため特に延長したのである。なお、〇、六七坪の占用許可に対し、一坪分の占用料を徴収したのは、青森市道路占用料徴収条例第三条の規定により、右許可面積が占用料徴収の単位面積たる一坪に満たないので、切り上げて一坪として計算したからであり、一坪までの使用を認めた趣旨ではない。

(三)  被申立人が、申立人等に対し、本件道路占用許可の取消処分をしたのは、申立人等が右許可の条件に違反し、道路占用開始後間もなく日没時屋台の撤去をしないようになり、すすんで同年九月二一日から二三日に至る三日続きの休日を利し、各自約一坪の建坪を有する土台附屋台を構築し、いすわりの態度を明示するに至つたからである。(なお、右土台附屋台の設置場所は占用を許可された場所と異つている。)

(イ)  申立人等は、青森市長が第三回の占用許可(昭和三二年九月一六日から同年一一月三〇日まで)に当り、土台附屋台設置を承認したかのように主張するが、申立人等からその趣旨の申出を受けたことはなく、いわんやそのような了解を与えた事実は存しない。

なるほど、申立人等の道路占用願(第三回)には「占用の方法」として「組立級店舗」と記載されているけれども、前記のような許可更新の趣旨からいつても「組立級店舗」が従前の組立式屋台店を意味することは明白で右のような記載ある占用願に対し許可があつたからといつて土台附屋台の設置を許可したことにはならない。ことに、当時すでに、被申立人に対しては、申立外笹原秀雄外四名から、申立人等に対し道路占用を許可したことは違法であるとして訴訟(当庁昭和三二年(行)第九号事件)が提起せられ、被申立人としても、一一月末日限り申立人等の屋台を撤去させる旨陳弁これつとめている最中であつたから、申立人等に対し、右のような改造を許せるはずがない。又、被申立人が、申立人等屋台の改造状況を調査した事実はあるが、これを承認したことはなく、かえつて、その直後土台附屋台を撤去するか旧態に回復するよう要求したのである。察するところ、申立人等は、右行政事件の審理の進行から推して来る一一月には必ず撤去を要求されるであろうことを見とおし、屋台改造の暴挙に出たもので、申立人等の業態からすれば、人出の多い休祭日はいわゆる書き入れ時であるべきにかかわらず、前記のように三日続きの休日に営業を休み改造を断行したのは申立人等自身その違法を熟知しているからこそというべきであろう。

(ロ)  申立人等は、占用許可の条件に違反したことによる許可の取消は、公益上やむをえない必要が生じた場合に限ると主張するが、このような趣旨の規定は道路法に存しない。本件占用許可取消処分は、同法第七一条第一項第二号によるものであり、同条第二項によるものではない。

(ハ)  次に、申立人等は、被申立人において、本件処分をなすにつきあらかじめ聴問を行わなかつたと主張するが、被申立人は、本件道路占用許可取消をなすに先だち、昭和三二年九月二七日申立人等に対し聴問通知を発し、翌二八日聴問を実施しているのであつて、申立人等の非難はいわれなきものである。

(四)  本件代執行により申立人等の屋台店が除却されれば、これにより申立人等に何らかの損害を与えることは、被申立人もあえて否認しないけれども、申立人中には、木沢、林及び桜庭のように他にも立派な店舗を所有している者もあり、又、太田のごときに至つては、事実上本件屋台店を使用せず、第三者が太田と称して利用している状況であつて、申立人等がさしあたり生活に困るとは考えられないのみならず、若干の損害を生じたとしても、被申立人青森市の財政上右損害の補償は困難ではない。

(五)  なお、本件道路は、青森駅に近く、沿道民家は 密であり、人車馬の往来繁く、火防上、交通取締上の見地からも、申立人等屋台の早急な撤去を要することは、青森警察署長及び青森市消防長の一致した意見である。もし、申立人等の申立が認容されるようなことがあれば、大青森市の建設と美化を企図する被申立人の行政施策はここに一頓挫を来すこととなるのみならず、他の同種の屋台店に対する影響も甚大であり(申立人等は、被申立人等が、他の道路不法占用者を全く放任しているかのように主張しているが、決してそうではない。)、由々しき大事であると考える。従つて、本件処分の執行の停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞があるものというべきである。

(六)  以上のような次第であるから、本件申立は失当である。

というのである。

(疎明省略)

申立人等が、もと、別紙図面表示(イ)、(ロ)及び(ハ)の区域内地上に屋台店を設置し、物品販売業等を営んでいたが、昭和三二年四月三〇日頃右屋台店を撤去したこと、青森市長が、同年五月一五日頃申立人等に対し、別紙図面表示の位置に各面積〇、六七坪(ただし、占用料は一坪分を支払うこと。)の道路占用許可を与え、その条件として、右占用の目的は組立式屋台の設置とすること、右屋台は日没時に撤去することと定め、その後二カ月ごとに二回にわたり許可を更新し来つたこと、申立人等が第三回の占用許可後、同年九月二三、四日頃従前の組立式屋台をやめて各自約一坪の建坪を有する土台附屋台を構築したこと、青森市長が同年九月三〇日申立人等が許可された〇、六七坪を超え一坪を占用し且つ組立式屋台を土台附屋台に変更したのは、先の道路占用許可の条件に違背しているとして、右許可を取り消す旨通告し次いで、同年一〇月二日右屋台を除却して道路を原状に回復すべき旨通告し、更に、同月二三日本件代執行の戒告をするにいたつたこと、以上の各事実は当事者間に争がない。

申立人等は、青森市長は、申立人等に対し、許可された〇、六七坪を超えて道路を占用し、且つ、組立式屋台を土台附屋台に変更するにつき承認を与えていたものであるから、申立人等においては何ら占用許可に附された条件の違反がなく、前記許可取消処分は無効であり、これに基く原状回復命令及び本件代執行の戒告も無効であると主張する。

しかしながら、本件にあらわれた全疎明によつても、被申立人が、申立人等に対し、その主張のような承認を与えたことを認めるに足らず、かえつて、乙第一三号証によれば、申立人等が、被申立人に無断許可面積を超えて土台附屋台を構築したものであることが疎明されるから、申立人等の右主張は、すでに、その前提において失当である。(なお、被申立人が、申立人等から一坪分の土地占用料を徴収しているのは被申立人主張のような事情に基くものであり、申立人等に対し一坪の占用を許可したものでないことは乙第五号証により疎明される)

次に、申立人等は、占用許可の条件に違反したことによる許可の取消の場合でも、公益上やむをえない必要が生じた場合でなければ許されないと主張するが、道路占用の許可は、道路法第七一条第一項により許可処分に附された条件に違反した事実が存すればこれを取り消し得るものであることは右法条の文理上明かで、同条第二項各号に規定する事由の存在することを必要とするものではないから、申立人等のこの点の主張も失当である。

更に、申立人等は被申立人において、本件戒告をなすにつき、あらかじめ聴問を行わなかつたのは違法であると主張する。しかしながら、行政代執行法による戒告については、あらかじめ聴問を行うべき旨の規定がないから、被申立人が本件戒告を発するにつきあらかじめ聴問を行わなかつたとしても何ら違法ではない。(被申立人が、本件道路占用許可を取消すに先だち、その主張のように聴問の手続をとつたことは、乙第一二号証及び同第一三号証により一応認められる。原状回復命令を発するに当つて聴問の手続をとつたことを認むべき疎明は存しないけれども、道路の原状回復は、占用許可取消の必然的帰結なのであるから、右占用許可取消にあたりあらかじめ聴問を行つた以上、申立人等はその機会に屋台の撤去につき自己の意見を陳述し利益をまもることができたはずであるから、取消処分の執行手続ともいうべき原状回復命令の段階において再び聴問の手続をとらなくとも違法とはいえないであろう。)

以上説明のとおり、本件代執行の戒告は無効とはいえないのみならず、たとえ、その執行が完了したとしても、本件屋台のような簡易な工作物を復元することは極めて容易であり、且つ、申立人等の営業の休止によつて受くべき収益の喪失については金銭的補償が可能であると解せられるから、これによつて申立人等に行政事件訴訟特例法第一〇条第二項の「償うことのできない損害」を蒙らしめるものともいうことができない。そうしてみると、本件申立はその理由がなく却下をまぬがれないことは明白である。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 佐々木次雄 宮本聖司 右川亮平)

(別紙省略)

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